問い詰めても過去は変わらない

「なんで言ってくれなかったの?」というセリフほど、意味のないものはない、と思う。AさんがBさんにCという内容を伝えられなかった、という事実はもう変えがたい過去のことであって、その理由を聞いたところで、Bさんに何かメリットがあるのだろうか?

 

「なんで言ってくれなかったの?」というセリフを言ってしまうBさんの心境として、私がいちばん容易に想像できるものは、「そのときAさんがちゃんと私に言ってくれていたら、事態はもっとマシだった」「Aさんが私に言ってくれなかったから、今の困った事態になっている」「Aさんが私にCだと伝えてくれさえいたら、私の力で今の状況には陥っていなかったはずだ」などなど。

 

つまり、Bさんにとって、自分は悪くない、Cだと言わなかったAさんが悪い、という思考回路が、そこにあるような気がする。

 

一方、BさんにCだと言えなかった、あるいは言おうと思わなかった、あるいは言うつもりがなかったAさん…と、すでに理由がさまざまに推測できてしまうわけだけれど、私がいちばん容易に想像できるAさんの心中は、「言ったらBさんから怒られると思った」だ。

 

言ったら怒られると思って、言わなかった。で、言わなかったことで、やっぱり「なんで言わなかったの」と怒られる。

 

だったら最初から言えばよかった、とはならない。たぶん。Bさんが、Aさんから離れていくだけだ。

 

Aさんが、Bさんに離れてほしいなら、「なんで言ってくれなかったの」と問い詰めたらいいと思う。

 

けど、BさんにとってAさんが大切な人で、これからもずっと何かを一緒にしていきたいのであれば、言うべきセリフは「なんで言ってくれなかったの」ではなく、「言ってくれるタイミングをあげられなくてごめんね」だ。あるいは、「話し合う時間をとれなくてごめんね」「私にはなんでも言っていいってことを伝えてあげられなくてごめんね」「話しかけづらい雰囲気を出していたならごめんね」「もっと早く私から話を聞けばよかったね、ごめんね」だ。

 

私は、たぶん謝りすぎなんだと思う。バイトの子にも、「わー、それ、言ってなかった、ごめん!」「えー、そうか、ごめん、まだこれ教えてなかったね」「うーん、分かりづらかったかな、ごめんね、違うんだよ」などなど。

 

だってさ。伝えたいと思っているのはこちらなんだから。伝わってほしいと思って話し手いるのは、私なんだから。伝わらなかったら、悪いのは私だ。

 

べつに謝ることがいいことだとか、優しさや思いやりが全てだ、というわけじゃない。過去のことは変えられないという、そういう現実的な解決策として、「なんで言ってくれなかったの」っていう問い詰めには意味がないと、そう思っている次第であります。